ウメハラさん発案の大イベント“俺を獲れ”に研究者として参加されたラシード使いVtuber・クローバーさんへのインタビューです。
格闘ゲームコミュニティ『ハシンガリーグ』にも所属されています。
目次
ガチ研究者のクローバーさんは負けず嫌いのガチ格ゲーマーだった件
カミヅキ
”俺を獲れ”、どうでしたか?
クローバー
いや、ちょっとできすぎて怖い……ぐらいですね。
だから浮かれすぎないように、でも、急いでやんなきゃなというか。むしろ引き返せなくなったというか。
カミヅキ
イベントの最中はプレッシャーなんて全然感じてなさそうだったのに笑
クローバー
研究の話を多くの人の前で出来て、しかもあんなすごい人が僕の前で聞いてくれてると思ったら。もう楽しくてしょうがなくて。裏でみんな緊張で暗い顔してるのに、僕は前の出番の人たちがやっているのを見てケラケラ笑ってました。
僕はスパーで何回もウメハラさんと対戦しているから、ウメハラさんへの感動が終わってたのが良かったんでしょうね。
ストⅣ時代にタイステで見かけたときは、ちょっと近づけなかったんですけれども……。
カミヅキ
あ、ストⅣシリーズやってたんですね。
クローバー
最初はジュリで、最後の方はユンを使ってPS3でPP3800ぐらいでした。
頑張ってればPP4000までいけそうだな~って思いながらやめた記憶があります。
タイステに行ったのも洋梨さんのプレイを見たかったからだったんですけれども。
カミヅキ
その頃から格ゲーは結構ガッツリやってました?
クローバー
実家のリビングでブチギレながらやってましたよ。
もうね、エンバトで50連敗するとか毎日でした。
俺まだ負けてねーから!って向こうが抜け出すまで一生連コしてました笑
「なんで俺たちこんなにゲームするの?」を労働社会学の視点で分析する
カミヅキ
クローバーさんって研究者としては何が専門なんですか?
クローバー
労働社会学っていう分野です。
「そもそも人は何のために働いてるのか」みたいなことを研究しています。
カミヅキ
モチベーション研究ってことですか?
クローバー
モチベーション研究は経営学の中でも人材管理の分野ですね。
僕がやってるのは「労働者個人が労働にどんな意味づけを行っていくのか」みたいな内容です。ちょっと前まではかなり下火で、そんなに盛んじゃないジャンルだったんですよね。
日本って働くことはもう当たり前なんですよね。何のために働くのかみたいなことをわざわざ考えるまでもない国というか。
カミヅキ
イベントで研究のテーマとして出していたものが4つあったじゃないですか。
この4つを選んだ理由とかあれば教えてほしいんですけれども。
クローバー
「ゲーセン由来の格ゲー文化を記録したい」は、格ゲー文化を文字資料で残すのが大事だろうなって。
「プロゲーマーにとってどこからが仕事?」は、労働社会学のベタなテーマとして持ってきています。労働という視点から見たときに、プロゲーマーってとても面白い存在で、他の仕事にも共通するような新発見があると思います。
「若手とおじにどんな違いがある?」については、掘り下げることで、恐らく若者の労働観みたいなものの考察が出来るんじゃないかと思っていて。多分、若手とおじで結構ゲームへの考え方が違うと思うんですよね。
「なんで俺たち、こんなにゲームするの?」は、僕のプロゲーマー研究のゴールに置いているものですね。どうして僕たちは苦しくても対戦ゲームを続けてしまうのかという。
カミヅキ
この中だと「なんで俺たちこんなにゲームするの?」が一番興味ありますね。
SNSを見ててもめちゃくちゃ辛そうにランクマッチを回してる人とかいるじゃないですか。
趣味なんだから辛けりゃやめればいいのに……とは思うのですが、まあ、なかなかやめれないとかがあったりして、割と身近なテーマだなと思って。
クローバー
ランクマもそうですし、たとえば、僕がストVでプロのスパーをしてたとき本当に苦しかったんです。本ッッ当に辛くて。
しかも僕だけじゃなくて、他のスパー相手の人も同じように病んでるんです。それなのにゲームを続けちゃうんですよね。
ゲームが楽しくてしょうがないから続けているという状態でもなければ、いわゆるWHOの定義しているゲーム依存症と言われるような状態でもなくて、自分がゲームを強くなって何者かになりたいみたいな話でもなくて――。
そういう状態のことって今ある言葉じゃ説明しきれないと思うんですよね。
その不思議な状態をわかりやすい言葉で表現したのが「なんで俺たちこんなにゲームするの?」です。
カミヅキ
今の段階で、クローバーさんなりの仮説みたいなのはあるんですか。
クローバー
格闘ゲームコミュニティの居心地がいいっていうのが大きい理由なんじゃないかと思ってます。
格ゲーのコミュニティって、本当にちゃんとしたコミュニティとして活用されていて、ちょっと異質なんですよね。コミュニティとしてものすごいパワー持ちすぎているというか。
たとえば格ゲーコミュニティって趣味の集団でしかないはずなのに、実社会に影響を及ぼすことがあるじゃないですか。
カミヅキ
部屋を探すときに格ゲーマーの不動産屋さんに助けてもらった~、とかそういうのですか?
クローバー
あ、いい例ですね。
このコミュニティの持つ力が、「なんで俺たちこんなにゲームするの?」の答えになりうるんじゃないかと思ってるんですが、まだ仮説段階ですね。
誰が読んでも納得できるような説明作りをこれから頑張っていきたいって感じです。
ココが変だよ格ゲー文化!!
クローバー
ただ、研究という形で格ゲーに関係ない人にまで分かるように説明するためには「格ゲー文化」というものをまず述べなきゃいけないということが分かってですね。
カミヅキ
格ゲー文化……。
クローバー
他の研究者とか、仲間に自分の考えを喋ったら「え、なんでそういう思考になるの?」みたいなリアクションをされることがあまりに多すぎたんですよ。
だから「なんで俺たち、こんなにゲームするの」という本題に全然いけなくて。
その部分も含めて、格ゲーやってない人も納得できる形で説明するのが僕の目標です。
カミヅキ
あまり納得してもらえなかった格ゲー文化って、たとえばどんなのがありますか?
クローバー
えー、なんだろうな。
まず、プロゲーマーって賞金で暮らしてないってところからびっくりされます。
カミヅキ
あー。
確かに、プロゲーマーって聞いたらそんなイメージが付きますよね。
クローバー
敵なのに対策を教え合うとかも格ゲー独自の文化ですね。他の人に話すとびっくりされます。
理由を説明したら「囲碁とか将棋っぽいね」「茶道とか武士道に近いね」なんて言われたんですけれども。
カミヅキ
まあ、そこまで高尚な気持ちでライバルを育ててるつもりは無いんですけれども……。
クローバー
あと、これも驚かれたんですけれども、僕らって「強いやつは信用する」みたいな文化があるじゃないですか。
外部の人から見たら、格ゲーだけの関係なのに何で人間性まで信頼できるのっていう話になるんですよ。
カミヅキ
わかります。
なんか、強い人って無条件で印象良いですよね笑
クローバー
そもそもプロを目指してないのに、なんで一生懸命やってんの?とかも、一般の人からすれば結構疑問に思われます。
カミヅキ
趣味なんて全部そんなもんじゃないのかな……。
クローバー
いくつかの格ゲー文化は恐らく、日本独自のゲームセンター文化が由来してる部分もあると思うんですよ。
まだ出版の予定とかは全然決まってないですけれども、これらは本の形でまとめたいなって思ってます。
格ゲー文化を残すためには文字資料が必要
カミヅキ
じゃあ、まず本題の研究のために文化を記録する必要があるってことですか?
クローバー
それもあるし、文字資料で残しておくことで、格ゲーの文化を守れるんじゃないかと思って。
たとえば格ゲーには煽りって文化あるじゃないですか。
恐らく、このまま行くと煽りはどんどん許されなくなると思うんですね。
そうなったときに、今後は「おじリーグ」みたいな特別な場所じゃないと強い言葉を使っちゃダメみたいになることが、起こりうると思うんですよ。
カミヅキ
まあ、今のご時世だと無いとは言い切れないですね。
クローバー
それを防ぎたければ「文化なんだから残せる形を模索して残していこう」っていう議論が必要だと思うんです。
ただ、実際に議論をするのって、政治家であったりお偉いさんで、彼らが読めるような媒体にそういうのを文字資料で残すのが大事なんですよね。
カミヅキ
まさか政治家の人にあの長い長いおじリーグの配信を全部見せるわけにもいきませんしね笑
クローバー
ただ、今のままだと、何が文化かというのは誰もはっきりとも分からないんです。
僕が格ゲー文化を全部守れるとは思わないんですけれども、少なくともその議論ができるようにしたいんです。
個人的に格闘ゲームってeスポーツって概念と戦っている感じがするんですよね。
eスポーツの中に取り込まれたり、利用したりしながらも文化的な境界のせめぎ合いみたいなのをしてる気がしていて。
もちろん、選手会も出来たり、色々な目に見えないところで裏方の人が戦ってくれてるから今があると思うんですけど。その議論の場で、格ゲー研究者って存在は強いと思うんです。
そういった形で業界に貢献したいですね。
まあ、お金にはならないと思うんですけど……格ゲーコミュニティへの恩返しですね。
”ウメハラ”の格ゲー攻略と、学術研究の「問いの立て方」が共通していた件
カミヅキ
クローバーさんが格ゲーと研究を組み合わせようと思ったのって、どのタイミングなんですか?
クローバー
それは結構早くから思ってました。
最初にまず論文読み慣れるっていう訓練をしたんですよ。
そのときにゲーセンのコミュニティノートの研究があったんです。
カミヅキ
コミュニティノート?
クローバー
誰でも好きなことが書けるノートがゲームセンターにあるんですよ。
そのノートの使い方や、ノートを介したコミュニケーションについて分析した研究があって。
でもゲーセンの話なのに、ゲームの話はほとんど出てこないんですよ。
それを見たときに、格ゲーってまだまだ書かれてないことが多いなーと思って。
でもまあ、自分はまだ格ゲーを初めて5年とかのド新人なので、いつか書けたら面白いよなぁ……って感じだったんですよ。
けれども、格ゲーのことを変な人に書かれたくないなって思ったのと、自分のタイミングみたいなものが合わさって……って感じで覚悟が決まりました。
カミヅキ
クローバーさんがやろうとしていることって、僕個人としてはめちゃくちゃ意義深い活動だと思っていて。
自分たちが格ゲーを遊ぶ動機を言葉で説明出来るようにしておくことって、長期的にはすごく良いことに繋がると思うんですよね。
格ゲーも自分の行動を説明したり、文字にすることで新しい角度から見れるみたいなことってあるんですけれども、それと同じ効果がクローバーさんの研究で起こればいいなーって思ってて。
まあ、研究と格ゲーを同列に扱っていいか分からないんですけれども笑
クローバー
いや、実は格ゲーと研究って似てる部分があるんですよ。
“俺を獲れ”に参加されていたGeminiさんについてウメハラさんが解説していた切り抜きがあったと思うんですけれども、あそこでウメハラさんが語っていたことが、僕が大学院で学んだ「研究の問いの立て方」っていう内容と本当に同じでびっくりしました。
まさに研究の手順を説明されているみたいでした。
カミヅキ
データは疑問や問題意識とセットじゃないと役に立たないという話ですよね。
「同じキャラを使って、使っている技も同じなのに、どうして結果が違うのだろう」という話を例に出して説明されていましたね。
クローバー
そうです。
その疑問の持ち方が、まさに研究のテーマの作り方なんですよね。
流石ウメハラさんだと思いました。
本当に学術的な研究と同じことをウメハラさんはゲームでやっていたんですよね。
別にGeminiさんが頑張ってないって話じゃ全くなくて、プレイヤー視点だと気になる箇所もあるよねっていう話だと思うんですけれどもね、きっと。
「格闘ゲーム界隈ならではの常識の再確認みたいなことをしてもらって、いろんな人の利益になればいいなと思います」
カミヅキ
イベントで「研究の面白さが伝わってこない」って突っ込まれてたじゃないですか。
クローバー
こくにぃさんですよね。
あの人は、頭の良さやばいっすね。会場でビビりました。
恐らくですけれども、あえてヒールを演じてる部分があって、その切り替えの早さがとんでもなく早い。あれはビビりましたね。
カミヅキ
正直、あそこは「僕に騙されてください!」の勢いで誤魔化してましたよね?
クローバー
「研究の面白さが伝わってこなかった」というのはごもっともなご指摘だったと思います。
あのイベントの短い制限時間の中だと更に説明が難しいと思ったんですよね。
僕が考えている「研究の面白さ」と比べてとても程度の低い説明しかできないと判断して、当日は「騙されてください」「僕を信じてください」で押すと決めてました。
カミヅキ
僕自身は「当たり前のことを説明するゲーム」というクローバーさんの説明だけで、めちゃくちゃ面白そうじゃん!って思ったんですよ。
でも、他の人に話を聞いたら、こくにぃさんと同じように伝わらなかったという人もいたみたいで。
そういう人たちには、今後、研究の面白さは伝わらないままなんでしょうか。
クローバー
それについては、具体的な成果を出しながら、研究の面白さを分かっていただけるような発表をしようと思いますね。
これからもまだ僕のこと見ていただけるのなら、ですが。
カミヅキ
どれぐらいの期間で僕らはクローバーさんの成果を見れるんですか?
クローバー
論文って投稿時期が決まってるんですよね。
なので、まあ早くて、一年後かなっていう気がしますね。
その前にもし発表の機会を頂ければ途中まで進んだところとかお見せできるかもしれません。
もしかしたら「文系の研究って何やんの?」「調査方法がインタビューってジャーナリストにやらせればいいじゃん(笑)」って思われてるかもしれないんですけれども、社会学でやるインタビューの手法や専門的な分析は日々良くなっています。
その中で格闘ゲーム界隈ならではの常識の再確認みたいなことをしてもらって、いろんな人の利益になればいいなと思います。
カミヅキ
えー、本当にみんなの利益とか考えてますか?笑
クローバー
結構思ってますよ笑
格ゲーマーに胸を張れないような研究してもしょうがないんで。
それが具体的にお伝え出来る段階ではないのが歯がゆいですね。
◆クローバーさんのYouTube配信チャンネル
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