ファクトフルネスとは聞きなれない言葉ですが作者の造語で「事実に基づく世界の見方」を意味します。実は我々は思ったよりアホなので、世界を現実よりずっとドラマチックに捉える習慣があります。
格ゲー界隈で言えば発売日当日にツイッターで即死コンボ動画が上がれば実用性を考えずにいいねとリツイートを押してしまうし、SNSで誰かが炎上してると中身をロクに確認せずに頼まれてもいない正義論を振りかざすことでいいねとリツイートを稼いでしまうわけです。
何が言いたいかというと、ごく一部の切り抜きや印象論で世界を理解した気分になることを我々はやめられない!やめられないのです!!
この本では我々がアホであることを突き付ける10の事例が紹介されているのですが、全部を解説するとくたびれてしまうのでその中から3つ――分断本能、恐怖本能、焦り本能――を抜き出して、僕なりの解釈を付け足して紹介しようと思います。
概要
ファクトフルネスとは――データや事実にもとづき、世界を読み解く習慣。賢い人ほどとらわれる10の思い込みから解放されれば、癒され、世界を正しく見るスキルが身につく。
世界を正しく見る、誰もが身につけておくべき習慣でありスキル、「ファクトフルネス」を解説しよう。世界で100万部の大ベストセラー! 40カ国で発行予定の話題作、待望の日本上陸
ビル・ゲイツ、バラク・オバマ元アメリカ大統領も大絶賛!
「名作中の名作。世界を正しく見るために欠かせない一冊だ」―ビル・ゲイツ
「思い込みではなく、事実をもとに行動すれば、人類はもっと前に進める。そんな希望を抱かせてくれる本」―バラク・オバマ元アメリカ大統領特にビル・ゲイツは、2018年にアメリカの大学を卒業した学生のうち、希望者全員にこの本をプレゼントしたほど。
Amazonより引用
世界は二項対立で出来ている――分断本能
クリスマスやバレンタインが訪れると我々はインターネットの伝統と格式に則ってリア充を叩くわけですが、その発言の裏には「あいつら(リア充)」と「俺たち(非モテ)」という二項対立が存在するんじゃないかと思います。
ところが実際は世間がそんな分かりやすく二分化していることなんて無いわけです。一番多いのは「あいつら(リア充)」でも「俺たち(非モテ)」でもない中間層の人間のはずです。この二項対立で考えてしまうクセを分断本能と本では呼んでいます。
もちろん二項対立の罠が潜んでいるのはクリスマスだけではありません。本の中では「先進国」と「途上国」というお馴染みの区分ですら我々の本能が生み出した架空の二項対立であると語られています。
何となくのイメージで「先進国」は世界の数%しか存在しなくて、「途上国」は100ヶ国ぐらいあって、世界には今も食べるのに困っている子供がたくさんいて……と僕もこの本を読むまで思い込んでいたのですが、これが正しかったのは20年以上前の話です。今、世界の75%は日本ほど裕福では無いけれども食うのには困らない中所得の国です。
世界には「リア充」「非モテ」、「先進国」「途上国」という二項対立ではなく、グラデーションのように「どちらでもない層」が広がっています。
自分が二項対立で考えていることに気付いたら、その区分が本当に正しいか注意しなければなりません。
ショックと憎悪はデータに勝る――恐怖本能
投げキャラ使い曰く、人は過剰にコマ投げを恐れて死んでいくそうです。同じコマ投げでも状況によっては喰らっていいものも当然あるのにも関わらず。
しかし、そこの精査をせずに本能的な嫌悪感で投げ拒否択を選び、もっとヤバい選択肢を喰らってしまうというのはよくある話(ちなみに僕も精査しない側の人間です)。
このようにデータを無視して恐怖だけで物事を半自動的に判断してしまうことをこの本では恐怖本能という名前で紹介されています。
毒ヘビのような直接的な死の危険が身近にあった時代には恐怖本能は役立ったわけですが、そんな危機とは無縁になりつつある日本において恐怖本能は正しい社会観察の妨げにしかなりません。
たとえばメディア越しに地震で倒壊した建物や、津波でグチャグチャになった海外の街を見ると痛ましい気持ちになります。それを報道で目にするたびに世界では未だに自然災害の脅威が大きいように思ってしまうのですが、しかしデータで見ると自然災害(洪水・自身・干ばつ・山火事・異常高温・異常低温)で亡くなる人の数は過去100年で半分以下どころか25%以下になっていることがわかります。
世界はデータで見ると、本能が捉えるよりも良くなっています。
いつやるの?今でしょ!!の罠――焦り本能
また格闘ゲームのたとえになって恐縮なんですけれども、ストVではすべての防御行動の中で一番簡単に出来るガードこそが一番リスクが少なくて強力な防御であるというのが定説となっています。
しかし、画面端に追い詰められたとき、体力が大幅に不利になったとき、知らない連携をされたとき、あらゆる状況で一点突破の可能性にかけて不合理な暴れ行動をしたばっかりに死んでしまうことがよくありますよね。
「今すぐ手を打たないと大変なことになる!」というドラマチックな未来予想が行動を促す心の働きをこの本では焦り本能と呼んでいます。焦り本能が起動しているときこそ大事なのはデータです。緊急時ならなおさら。
今、世界は未曽有のパンデミックの渦中であり、飛び交う誤情報と恐怖がウイルスの危機に拍車をかけています。そんなときこそ大事なのはデータと事実を見比べることです。
本能で我々はアホになる
とはいえ、ワクチンの情報ひとつとっても、ワクチン推奨派も反ワクチン派もそれらしく見えてしまうのが正直なところです。
データを見ろといっても、情報が溢れすぎている現代では結局、情報の精査なんてしている余裕なんてなくて、「誰がそれを言ったか」でしか判断出来なくなっています(余談ですが、この情報パンデミックの混乱は岡田斗司夫が評価経済社会という本で20年前に予測しています。固いタイトルとは裏腹にゲロ面白いのでオススメ)。
これは僕の意見ですが、ファクトフルネスは「データを用いた正しい世界の見方」を読者に考えてもらうための本ですが、それよりも大事なのは自分が不合理な判断をする存在であることを知ることなんじゃないかと思っています。
ゲームで不合理なことをしてしまう自分、あるいは世界がより良くなっていることを知らなかった自分を思い出して、本能の抗いがたい力を理解して一度落ち着いて考えてみる。それだけでも、世界は今よりずっと良く見えるようになるんじゃないでしょうか。
ちなみに残りの7つの本能も超面白いのでこの本オススメです。
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