「氷菓」を始めとする「古典部シリーズ」がよく出来ているのは、使われたトリックには必ず青春のほろ苦さが入り混じっていることです。
「古典部シリーズ」の3作目、「クドリャフカの順番」は文化祭を舞台にした人が死なないミステリー小説です。
目次
あらすじ
待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲――。
この事件を解決して古典部の知名度を上げよう! 目指すは文集の完売だ!! 盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに……。
大人気〈古典部〉シリーズ第3弾!
Amazonより引用
伏線のためにストーリーが歪んでいない
まず何よりもミステリーとして美しいんですよ!
一見関係なさそうな出来事が最後には絡まりあって収束するというパターンはよく使われていますが、「古典部の冊子を作りすぎた」という問題と「文化祭の最中に発生した盗難事件」という問題をそういう方法で解決するのかと。
オチのための手掛かりは物語のそこかしこに仕掛けられていて、しかもそれは論理的に推測可能です。
4人の視点で進む物語
今回は探偵役兼主人公の折木奉太郎だけでなく、他の古典部のメンバー3人の視点も交互に繰り返す形で物語が進みます。
「氷菓」「愚者のエンドロール」ではそこまでキャラの個性が立っておらず、サブキャラとしての役割が強かった古典部メンバーですが、「クドリャフカの順番」では彼らも主役に加わります。
物語は「他人との比較と憧れ」というテーマを中心に構築されているんですけれども、読み終わったときに「この物語は本当にミステリーとしてだけでなく青春小説としても良く出来ているな」と思わされました。
文化祭で暴走気味のキャラクターたち
そして何よりもこの作品の見どころは、文化祭というお祭りの雰囲気に当てられて各キャラクターの個性が暴走しているところ。
文化祭でも「省エネ主義」を貫き過ぎる奉太郎、世間知らずなお嬢様っぷりを発揮してブレイクダンスを踊っている人を本気で心配する千反田、楽しめることはとことん楽しみまくる主義に則って羽目を外す里志、責任感の強さと負けん気の強さで先輩と漫画論で衝突する摩耶花。三者三様ならぬ、四者四様の文化祭の楽しみ方をしています。
「クドリャフカの順番」から読み始めても全然大丈夫だと思うんですけれども、今までの古典部シリーズを読んでいると、より一層楽しいと思います。
何にでもなれると思っていたのに、何にでもなれるわけじゃないと気付いてしまった
「クドリャフカの順番」の謎が全て解かれたときに、読んでいる僕らが寂しさや苦さを感じるのは、彼らの視点を通して、自分の中にかつて存在した「憧れ」の気持ちを思い出したからかもしれません。
何にでもなれると思っていたのに、何にでもなれるわけじゃないと気付いてしまった――そんな青春のほろ苦い瞬間を切り取った傑作青春ミステリーです。
コメント