この作品は辻村深月がドラえもんから受け取ったメッセージを小説の形に昇華した、彼女からドラえもんへの恩返しのような作品です。
随所にドラえもんの道具の名前が出てくるというのもそう感じた理由の一つではあるのですが、何よりも作品の根底に流れるメッセージにドラえもんへのリスペクトを強く感じます。
この本はキンドルのポイント50%還元セールの対象商品です。(4/14まで)
実質半額で買えます。
あらすじ
藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから五年。残された病気の母と二人、毀れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現れた一人の青年・別所あきら。彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでしまう…。家族と大切な人との繋がりを鋭い感性で描く“少し不思議”な物語。
Amazonより引用
辻村深月作品の中でも最高傑作との呼び声が高い一作
作者の辻村深月は直木賞を受賞したこともある人気作家なんですけれども、ファンの中では彼女がドラえもんの大ファンであることはとても有名な話。
最近は劇場版のドラえもんの脚本も手掛けていました。(感想記事)
そんな彼女が「ドラえもん」をモチーフに書いたのが今回紹介する「凍りのくじら」です。
辻村深月作品の中では「凍りのくじら」が一番の傑作と推す声も多く、読んでみるとそういわれるのも納得の出来でした。
Sukoshi Fuzai
主人公の女子高生はドラえもんがモチーフになっている小説の主人公とは思えないぐらい性格が悪く、
「周囲の望むリアクションを返しながらも、他人に冷ややかなキャッチコピーを付ける遊び」をしていることが冒頭から描写されています。
そのキャッチコピーは藤子不二雄のSF(少し・不思議)になぞらえて、SF(Sukoshi・〇〇)という形で付けられます。
たとえば、男漁りのために飲み会を渡り歩く女子には少し・ファインディング(Sukoshi Finding)、抵抗勢力を見つけだし怒ることにモチベーションを見つけている同級生には少し・憤慨(Sukoshi Fungai)。
そんな主人公は、誰とでも仲良くするけれども、どこにも居場所が無い。
彼女が自分に付けたキャッチコピーは、少し・不在(Sukoshi Fuzai)。
この小説は自分の居場所が無いと思っている女子高生が、少し・不在を脱却するための物語です。
辻村深月といえば構成力の高さ
主人公はドラえもんが大好きなので、色々な物事をドラえもんに当てはめて考えます。
たとえば、どのグループにも混じることが出来て、誰とでも仲良くなれる自分は「どこでもドア」のようだとか。
この小説は章の名前がそれぞれひみつ道具の名前になっていて、それが物語のポイントにもなっています。
そして辻村深月といえば伏線のセンスが抜群に上手いことでも有名なのですが、今作でもそのセンスは発揮されています。
ドラえもんの道具を交えながらシナリオを進めるという縛りを設けながら、違和感なく伏線を回収し、それでいて伏線のために物語を破綻させないという絶妙な構成力でこの小説は成り立っています。
漫画に育てられた全ての人へ
漫画からは大きなモチベーションをもらった人も多いと思います。
それは、漫画が自分の考え方に大きな影響を与えたというような立派な理由だけではなく、
漫画の面白さによって日々が明るくなったというような小さな理由でも。
この小説はそんな、僕らのような漫画から元気をもらった人のための小説なのです。
自分と漫画の関係性を思い出せてくれる良い小説でした。
読者登録してもらえるとモチベにつながります!!
コメント