レジェンドオブ春麗より面白いんだから黒歴史扱いはやめてほしい
著者について
碧星タケルという人らしいんですけれども、スト2の小説書いてるぐらいの時代の人だから検索してもあまり出てこないんですよね。
秘拳伝キラという漫画の原作をやっていたそうなんですけれども。
あらすじ
1987年10月―タイ北部国境沿いの町で、ムイタイの達人サガットと無名の日本人格闘家リュウは、ひょんなことから死闘を繰り広げることとなった。それから4年、リュウは香港の九龍城砦で開かれた武術大会に参加していた。巨大麻薬組織シャドルーが暗躍するこの大会で、リュウが、春麗が謎の男ベガを追う。超人気格闘ゲーム「ストリートファイター2」初の小説版登場。
Amazonより引用
感想
作者の碧星タケルさんが、異様に”書ける人”なんですよ。
格闘描写が分かりやすいし、波動拳や昇竜拳みたいなみたいなものを説明するときの説得力が尋常じゃない。
昇龍拳の部分の引用をしてみましょう。
天空へ昇ってゆく龍――サガットの脳裏に閃いたのは、正にそんなイメージだった。
上方へ舞い上がりながら、右のアッパーでアドンの顎を捉える。それを喰らった瞬間、アドンの体も数十cmは浮いたように見えた。
そしてリングの中央からロープに吹っ飛び、棒のように倒れてしまった。
(中略)
これは今まで誰も気付かなかったものをリュウが開発したのか。誰もやらなかった新しい必殺のブローであるのか。
解答はNOだ。
誰もやらなかったのは、できないことだからにすぎいない。
そもそも打つ人間の足が地面を踏んばっていてこそ、下から突き上げるアッパーという技は威力を得るものである。
実際にジャンプしながらアッパー打ってみればわかる。拳に上手く力が伝わらないはずだ。人体の構造が、その作業をするように出来ていないのである。
が、しかし、リュウはそれを使った。しかも、科学的な現実を無視したそのアッパーには非現実的な威力が秘められていた。こんな技を見て納得する客はタイにはいない。日常的に研ぎ澄まされたプロの技を見て育ったムエタイの観客である。客はアドンが自分からわざと派手に飛んだように思ったのだ。
このもっともらしい解説、良くないですか。昇竜拳が如何に異常な技で、如何に力強いかが伝わってきます。
この本を買ったのは小学生の頃だったのですが、ゲームのキャラが画面上で繰り広げてるだけの技からここまでのストーリーを引き出していることに本当に感動しました。
当時、もっと感動したのは竜巻旋風脚の描写です。
右の飛び後ろ廻し蹴り。
今度は、サガットがのけぞって避けた。
「――甘い!」
飛び後ろ廻し蹴りは威力ある大技だが、隙が大きい。空振りして着地した時、必ず無防備になってしまう。
しかしスウェイバックした上体を戻そうとしたサガットは、全身総毛立つような戦慄に見舞われることになった。
避けたはずのリュウの蹴りが、再びサガットを襲ってきたのだ。
右の踵が、頬骨をかすめていく。
リュウの飛び後ろ回し蹴りは一回転では終わらなかったのである。
三回転目が、ついにサガットを捉えた。
恐るべき回転力が凄まじい衝撃力を生んでいた。
両手を使い、さらに肩に頭を埋めるようにしてブロックしたが、それでも脳を揺さぶられた。
小学生の僕としては「そりゃ身体が回転したらプロペラみたいになって羽ばたけるに決まっている」ぐらいに思い込んでたんですけど、この小説だと『当時はいち格闘家でしか無かったサガットにとって、リュウという存在の異質さを示す象徴の技』みたいになってるんですよね。
戦闘シーンでは、画面の中でしか動いていなかったキャラクターが、紙の上で本当に生きているとまで思いました。
ストリートファイターの小説ってキャラ小説としてばかり書かれてて、格闘技や武術が好きな人が書いた小説はこの人の作品ぐらいしか無いんですよね。
この本、惜しむらくは、全3巻の予定が打ち切りになって2巻でまとめられてしまったこと。褒めてる人見たことないもんなあ……。
検索してもレビューはほとんど出てこないし、たまに掲示板で感想を見かけてもオリジナル設定の評判が悪かったりするんですけれども、僕はすごく好きな小説です。サガットの出身地に伝わる童謡がリュウとサガットの運命を暗示している展開とか、雰囲気出てて良いんですけれども。
元の小説版からの文字起こしぐらいだったら何ぼでもやるんで電書版で出してほしいです。
というか勝手にやってカプコンに送りつけようかなマジで。
続編の感想記事です
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